学生に向けて
経済の自由化や科学技術の進展により国境を越える人や物、情報の移動は益々盛んになっており、それに伴い、企業が行う取引や個人による家族関係の形成も、国境を越えてなされることが増えています。これらの取引関係や家族関係は、日本だけではなく複数の法秩序と関係を持っており、そのため、純粋の国内事件のように、日本の裁判所で日本法に従ってその有効性や内容を判断すればいいというわけには必ずしも行きません。それでは、このような国境を越えた法律関係を巡って紛争が生じた場合、そもそも何処の国の裁判所で、何処の国の法に従って紛争を解決すればいいのでしょうか。
このように、国境を越えた法律関係に関する諸問題を扱うのが抵触法(広義の国際私法)と言われる法分野です。そこでは、複数の法秩序に関る法的問題を規律するのは何処の国の法なのか(準拠法選択)、国際民事紛争が生じた場合、何処の国の裁判所で紛争を解決すべきなのか(国際裁判管轄)、外国で下された判決について、どのような場合に国内でも効力を認めるべきか(外国判決承認執行)、外国の法秩序とどのように協力を進めて行くべきか(国際協力)といった問題が論じられます。様々な国際取引や国際的な婚姻・離婚といった伝統的な問題に加えて、最近では、各国競争法の域外適用によるその抵触や調整、民間団体が形成する国家法以外の規範(非国家法)の適用可能性、国際取引紛争の解決手段としての仲裁と訴訟との調整、国際的な子の奪い合いに関する解決等、新しく複雑な問題が数多く生じており、抵触法を巡って世界中で活発な議論がなされています。日本では国内市場が大きいためか、抵触法の重要性に関する社会的認識は今のところ必ずしも十分とは言えませんが、経済・社会の国境を越えた広がりはこの先益々進んで行き、それに伴い抵触法の果たす役割は益々重要になって行くでしょう。皆さん、是非抵触法に興味を持って下さい。